「医師対患者の関係」

本田忠=本田整形外科クリニック院長、八戸市在住

 【マターナリズム(母親的包容主義)が基本】

 手術、検査、麻酔等の必要性や危険性に対して、主治医が用意する同意書へ
患者さんが記入することさえ、違和感や抵抗感を感じる方が多いようです。

 「先生にお任せします」。これは日常よく見られる光景です。十分な説明の
下に、個人の決断に基づくはずの自己決定が、不明確に行われています。日本
における、医師対患者の関係は、パターナリズム(父親的温情主義)というよ
り、むしろマターナリズムが基本であるようです。

 【「説明と同意」の限界】

 さまざまな情報から総合的に判断して、治療法を選択するのは言うまでもな
く患者さん自身です。インフォームドコンセント(十分な説明と同意)は、難
しく言えば、「独立した権利主体、人格主体としての患者」に、「同じ権利と
人格主体である医師」が説明して、同意を得て、初めて成り立つものです。

 医師対患者は、対等の関係であらねばなりません。患者が、「独立した人格」
で、「十全な自己決定能力」がなければ、自己決定は十分にはできないことに
なるでしょう。

 【情報の非対称は無くならない】

 情報の非対称には「医学知識」と「依存」の二つの面があります。「医学知
識」は、言うまでもなくある程度勉強すれば補えます。一方、どんな方でも、
病気になれば、助けてほしいという依存心が出ます。いくら情報公開しても医
師対患者は、残念ながら、対等の関係にはなり得ません。

 【医師対患者の関係は「信頼関係」と「思いやり」が基本となる】

 「マターナリズム」と、「情報の非対称」の存在する社会では、医師対患者
の関係は、「契約」ではなく、「信頼関係」と「思いやり」という極めてあい
まいな概念が基本とならざるを得ません。

 こういう社会で、明確な文書化は、逆に医師の自己責任の放棄と、形式主義
への退行になり得るでしょう。