「救急専用のドクターヘリ」
今明秀=八戸市立市民病院救命救急センター所長
わが国の外傷死亡には、適切な病院へ迅速に運び、適切な治療を受ければ助かった
に違いない「防ぎ得た死亡(プリベンタブルデス)」が40%近く隠れているといわ
れます。この数字、ぞっとしませんか。
ドクターヘリは、救急専用のヘリコプターです。病院敷地内に常駐し、医師、看護
師が乗り込みます。要請からわずか三分で離陸します。傷病者のいる現場近くまで飛
んで行き、現場あるいは救急車の中で医師が救命処置を行います。その後、適切な病
院へあっという間に傷病者を運びます。
これまでは、救急車が傷病者を乗せて病院へ運び、病院で待ち構えていた医師の元
に到着して初めて治療が開始されていました。ドクターヘリで医師が現場に出動し、
現場で治療を開始してしまうのです。ドクターヘリにより、医師による治療開始時間
がぐんと早まるのです。
では、どのような患者さんがドクターヘリで運ばれるのでしょうか。これまで行わ
れてきた国内のドクターヘリの実績では、半分以上が外傷です。例えば交通事故、労
災事故です。残りが脳卒中と心臓病です。現場に出向いた救急隊が傷病者を観察して
重症と判断したときに、救急隊からドクターヘリの出動要請がかかります。
病院にはドクターヘリ出動の専用電話が備えられています。このベルが鳴りだすと、
病院スタッフはみんな緊張します。
ドクターヘリは、八戸市立市民病院敷地内のヘリポートから離陸します。病院の建
物のドアを開けると、なんと二十メートルでヘリコプターに到達です。サンダーバー
ドよりずっと近い!
救急医師と救急看護師は、ドクターヘリ出動に備えて救急室で待機しています。医
師不足の時代に、ドクターヘリのために医師を常に待機させることができる病院は全
国にそう多くはありません。八戸市立市民病院救命救急センターには、救急専従医師
が十六名います(二〇〇九年四月)。そのほとんどが、他県から救急医学を学ぶため
に八戸へ志願して来ているのです。
皆さんに少しお願いがあります。現場へヘリコプターで降りてきた医師には、南部
弁や津軽弁は通じないかもしれません。ゆっくり話してくださいね。
「提供・今明秀医師」