「滲出性中耳炎について」

村上耳鼻咽喉科医院 村上  裕


Q1:幼稚園に通う5才の女の子です。
最近、耳がつまる感じというか、水が入っている感じで、耳の聞こえも良くな
いようです。知人に話したところ、滲出性中耳炎ではないかと言われました。
子供に多いということですが、これはどの様な病気なのでしょうか。以前、急
性中耳炎になったことがあるのですが、これとはどう違うのでしょうか。

A1:滲出性中耳炎というのは鼓膜の奥の部分、中耳腔といいますが、本来こ
の部分には空気が入っているのですが、そこに液体が貯まり、それによって鼓
膜の動きが悪くなることにより難聴が出現する病気です。

 一般に知られている急性中耳炎は、細菌などによる感染で中耳腔の粘膜が化
膿し、耳が痛くなったり、発熱を伴ったりするので比較的発見し易いのですが、
この滲出性中耳炎はあまり耳が痛くなりません。耳がつまった感じがする、自
分の声が響いて聞こえるといった症状で気づくことが多いようです。さらにこ
の病気は65才以上の御高齢の方や、学童期前特に3〜6才のお子さんに多い
ので、最近自分の子供がTVの音量を大きくするとか、後ろからの呼び掛けに
返事をしないなどということをきっかけに、本人ではなく御両親が気付くこと
もあります。

Q2:滲出性中耳炎の原因は何でしょうか。

A2:それには簡単な耳の解剖を知っておく必要があります。先程お話ししま
した中耳腔は密室ではなく、鼻の奥と耳管という管で交通しています。この耳
管を空気が出入りすることにより、外界に対する中耳腔の気圧の調整がなされ
ているのですが、滲出性中耳炎はこの耳管の働きが悪くなることによって空気
の出入りが出来なくなることが原因の主体であると考えられます。具体的に説
明すると、例えば飛行機に乗っていて着陸の際、耳がつまった時や、スキュー
バダイビングをする際に耳抜きというものをしますが、この耳抜きが旨くでき
ない状態が続いていることと理解して頂いても結構です。

 この耳管の働きが悪くなる誘因は、一つには風邪などによる鼻や咽の炎症で
す。二つ目には、子供の場合口蓋扁桃やアデノイドといったリンパ組織が肥大
し、耳管の出口を塞ぐことです。三つ目は、最近アレルギー性鼻炎の患者さん
が増えてきているのですが、この病気があると鼻の粘膜にむくみができる為、
耳管が狭くなるので滲出性中耳炎を引き起こしやすくなります。四つ目に、こ
れは大変希な場合ですが、耳管の鼻への出口付近、ここを上咽頭と言いますが、
ここに悪性腫瘍ができる場合があり、これが耳管を塞いで滲出性中耳炎を発病
させることがあります。

Q3:滲出性中耳炎の治療法は?またどの位の治療期間で治るのでしょうか。
滲出性中耳炎にならない様にするには、どういうことに気をつければよいです
か。

A3:まず保存的治療として薬物療法があります。例えば中耳腔に存在する起
炎菌を無菌化することや、滲出性中耳炎に合併する上気道炎(風邪)をコント
ロールする目的で抗生剤を使用します。中耳腔に貯留する液体より検出される
起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌などが多いので、これらに抗菌作用のあ
る抗生剤を医師は選択します。

 また、貯留液は特に小児の滲出性中耳炎の場合、粘稠性が高い事が多いので、
粘稠度を低下させ、耳管を介した排泄を促す目的で、粘液融解剤を併用します。
もちろん、アレルギー性鼻炎を合併している方には、抗アレルギー剤を併せて
使用します。消炎効果として、ステロイド剤は最も有効なものの一つですが、
一定の副作用を持つこの薬剤を小児に常時使用することはやや問題があるので、
ステロイド類似作用を持つ漢方薬を使用する施設もある様です。

 この様な薬物療法と外来通院による耳管通気療法が治療の中心になります。
この耳管通気療法というのは、ポリッツェル球という圧迫すると空気の出るゴ
ム球や、耳管カテーテルという細い金属の管を使用して鼻腔から耳管本来のル
ートを通じて中耳腔に空気を送り込むことにより、排液を促そうとする方法で
す。

 こうした治療に抵抗する場合は、鼓膜を切開しそこから直接排液したり、そ
の切開した場所に、中に穴の開いた細いチューブをはめ込むことによって中耳
腔に液体が貯まらない様にする外科的処置もあります。治療の経過は様々で、
早期に治癒する方もいますが、数か月あるいはそれ以上の期間を要する場合も
あります。また治療中の滲出性中耳炎が風邪をきっかけにして悪化を繰り返す
ことも少なくないので、一般的な風邪の予防も大切な事と思います。もちろん
耳管の働きに影響を与えるアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎といった鼻の病気に対
する治療は大切です。

Q4:チューブを入れた子供は、プールに入れますか?また滲出性中耳炎を放
っておくとどうなるの? 

A4:水泳の可否については今も賛否両論ですが、密着性の高い耳栓を使用し、
その上に水泳帽を使用すれば特に問題はないと思います。それよりもむしろ、
チューブを入れた耳は自覚症状が改善する為、そのまま放っておかれがちなの
で、耳鼻科医での定期的な経過観察が必要と思います。

 滲出性中耳炎の予後ですが、放っておくと治りにくくなります。この状態が
続くと音を通じた学習が少なくなる為、子供の知的成長を妨げる結果になりま
す。さらに数年単位の経過で、より難治性の病気に変化する可能性があります。
例えば真珠腫性中耳炎といって鼓膜周辺の骨などの組織が破壊される結果、耳
鳴・めまい・顔面神経麻痺などを引き起こすことがあります。また、この疾患
は時に頭蓋内に至り、髄膜炎などの原因になることもあります。今一つは、癒
着性中耳炎といって、鼓膜が異常に陥凹する結果、中耳腔の壁と癒着してしま
う状態です。

 これらは、いずれも外来通院では治癒に至らず原則的に手術的治療が必要で
すので、そうなる前に根気良く通院治療することをお勧めいたします。


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