「過敏性大腸症候群について」
内科種市病院 鳥畑 鴻次
1)どういう病気ですか
大腸を主体として小腸を含めて腸管の機能異常によって起こり、臨床的には頭
痛、腹部膨満感、下痢、便秘の症状と下痢と便秘が交互に起こる疾患である。
2)原因は
大腸と小腸の機能異常によるもので、腸管の運動機能が昂進して起こる場合が
多い。
3)診断はどうしてつけますか
1)本体は器質的な疾患ではなく機能的な疾患であるので、診断ををつけるの
はかなり難しく消化管の特別な病気を否定しなければまりません。除外診断に
よって診断します。従って通常は下記の様な検査を行い、特別な病気がない事
を証明するのが原則です。
1)大腸X線検査ないし大腸内視鏡検査
2)胃X線検査または胃内視鏡検査
3)血液検査等の一般検査、糞便検査
2)診断に参考になる症状としては
1)腹痛、腹部膨満感、腹部不快感、残便感の腹部症状を有し、しばしば排便
により症状が軽快する事が多い。
2)特徴的な症状として
1)下痢、便秘、下痢便秘交代等の便通異常を有する。
2)症状の発現にはストレスの関与がみられる。
3)患者はその症状に苦痛を訴える。
4)経過として持続性、再発性、慢性である。
3)一般内科的な治療を行っても症状が持続する場合は、心身医学的な診断、
心理面接や心理テストが参考となる。
4)治療はどの様に
1)具体的な治療に際して日常生活で指導する内容としては次ぎに挙げるよう
なものがあります。
・)規則正しい生活(十分な休養と睡眠、適当な運動)
・)規則正しい食事と排便習慣を指導する。
増悪因子となる食事法と食事内容、嗜好品について指導を行う。
過敏性大腸症候群の患者の腸管は敏感で、反応しやすい状態にあるので原則と
して不消化性の繊維の多い食品、刺激性の強い食品をさける。特に、繊維の多
い生野菜、冷たい牛乳、脂肪の多いもの、酒、ビールは避ける。
2)ストレス要因の分析とその対処法を指導する。
3)環境的に問題があれば、その改善を指導する。
4)薬物療法
薬物療法には身体的な症状に対するものと、ストレスが関与して生ずる不安、
緊張状態、うつ病等の精神症状に対する2種類の方法がある。
・)下痢の症状に対しては大腸の運動機能が昂進している場合が多いので、腸
の運動を抑制させる抗コリン剤を用いる。この薬剤によって腸の運動が抑制さ
れることにより、便通異常が改善される。更に整腸剤、止痢剤を併用する場合
もある。
・)便秘を訴える場合も腸の運動が昂進している例が多いので抗コリン剤を投
与するが、現実には効果が不十分で作用の弱い下剤を併用する。ただし便秘に
対しては下剤をむやみに使用しないほうが良い。
・)この病気が腸の運動機能の異常により引き起こされているので、消化管の
運動機能を改善させる薬剤を使用する。この種類の薬剤は腸管に分布している
神経に作用して、腸の運動を昂進させたり抑制する働きを有する。
・)過敏性腸症候群の頭痛や不快感の臨床症状、便通異常の多くはストレスに
よって発症または悪化すると考えられているので、これらの身体的な症状に対
する治療の他に、ストレスによっておこる不安、緊張といった精神症状に対し
て治療が必要になってきます。例えば、不安、緊張の症状の強い患者さんには
向精神剤である抗不安剤を使用すると精神症状が改善されると同時に腹痛、腹
部不快感等の症状が緩和される。
・)過敏性腸症候群では腹部症状の他に不眠、全身倦怠感、頭痛、意欲低下等
のうつ状態が背景に存在することが多い。この様な患者さんに抗うつ剤の投与
が有効である。
5)心理療法
症状が維持し治療によっ改善されず心理的なストレスが有る場合は、このスト
レスの原因をはっきりさせ、これに対する的確な対処を必要とする。この様な
症状には心理療法を必要とする。心理療法には面接、支持的療法といったもの
があり、面接では患者さんの心理状態の診断を行うと共に、支持的に生命の保
証、心的葛藤の発散等を行い、心理的な緊張を和らげて自己正常化を促す。患
者さんの知的レベルや理解度に応じた説得、再教育を行う。
5)予防について
・)過敏性症候群の症状は便秘、下痢が多い。便秘の予防として朝食後にトイ
レに行くことを習慣ずける。食事内容としては繊維の多く含まれる野菜類、穀
物類をふんだんにとる。下痢については食事内容として脂肪の多い食品をとり
過ぎない様に注意し、アルコールについても過剰摂取しない。
・)適度の運動を行う。運動は腹筋を強め、血行を良くさせ腸管の働きも順調
となり、排便リズムを正常にさせる手助けとなる。さらに運動は精神的ストレ
スの解消ともなり便秘の改善に良い影響を与える。