「手軽にできる前立腺癌検診」
八戸泌尿器科医院 野村 一雄
Q.前立腺どこに?
前立腺は男性のみにしかなく、陰茎の付け根に膀胱の出口の尿道をとりまくよ
うに存在し、大きさ、形は栗の実ににています。
Q.はたらきは?
精巣で作られた精子は、前立腺部尿道より射精され、この精子といっしょに射
精される精液を分泌している生殖器官です。また、精液は精子を保護する役割
をしています。
Q.前立腺の病気には?
前立腺肥大症、前立腺癌、前立腺炎などがありますが、老人男性に最も多い疾
患は、前立腺肥大症です。これは、尿道を取り巻く前立腺内線がおおきくなり、
尿道を圧迫することにより排尿障害が生ずる良性の疾患です。
これに対し前立腺癌は、尿道より遠く離れた部位の外線より発生する癌・悪性
腫瘍です。
Q.前立腺癌の頻度は?
アメリカ合衆国の男性においては前立腺癌はすべての癌のなかで罹患率1位、
死亡率が2位です。欧米に比べれば日本の前立腺癌の死亡率は低いのですが、
ライフスタイルの欧米化に伴い、近年急増しています。
1966年の前立腺癌による死亡率は10万人あたり1.8人に過ぎませんで
したが、年々増加し1992年には4.8人に増加しています。また、前立腺
の患者数は1970年1,510人、1985年では5,022人で、200
0年には12,783人となり、2015年には26,110人と増加するこ
とが予想され、1985年の肺ガンの罹患率に近い数になると言われています。
Q.前立腺癌の症状は?
前立腺癌の初期の症状は前立腺肥大症となんら変わりなく、尿が出にくい、残
尿感がある、尿の回数が多い、下腹部に不快感があるなどの排尿障害がおもで
す。
よって症状だけでは、両者の区別はつきません。
これが進行すると骨に移転し多発性の骨転移のため骨の痛みが出現するように
なります。さらに進行すると、病的骨折や脊椎転移より脊椎損傷をもおこすこ
ともあります。
Q.日本での現状は
日本邦では、前立腺は発見時すでに40−60%に遠隔転移を認めます。言い
換えれば、排尿障害を訴えて泌尿器医を受診する前立腺癌患者の約半数は骨転
移や骨盤内リンパ節転移を有し根治手術不能な患者と言えます。排尿障害を高
年齢のためと考えている老人の多い地区ではさらに進行癌の発見率が高率です。
末期癌患者は主に女性ホルモンを投与する内分泌療法がなされ、当初は有効で
すが、開始後平均27か月で再燃し、その後平均10か月で死亡すると言われ
て射ます。癌死の際は長期間にわたり骨転移痛が著明で悲惨な最後をとげます。
つまり、症状が出現してから癌を発見するのでは遅すぎるといえ、前立腺癌検
診が重要となります。
Q.前立腺癌検診はどのような?
前立腺癌の検診の方法には、直腸診、経直腸的超音波法、採血による前立腺特
異抗原の測定の3つの方法がありますが、前者の2つは専門医がしなければな
りません。
このため現在では、簡単で診断性の高い前立腺特異抗原の測定が広く用いられ
るようになってきました。これまでは腫瘍マ−カ−として測定した前立腺酸フ
ォスファタ−ゼが転移を有する進行癌でなければ上昇しなかったのに対して前
立腺特異抗原は微小な早期癌においても上昇することが分かっており一次検診
に適していると言われています。
前立腺特異抗原が4.Ong/dl以下であれば正常ですが、10.0ng/dl以上で
あれば80%に癌が存在すると言われています。このように採血をするだけで
前立腺癌の検診が可能となってきています。
八戸市でも前立腺検診が一昨年の10月より始まりました。このため、かなり
の早期の前立腺癌患者が発見されています。
また、この前立腺特異抗原の測定は、検診センタ−のみではなく、かかりつけ
のお医者さんでもはかることができます。たとえば、高血圧や糖尿病で通院場
合に数か月に一度は採血検査を行っていると思いますが、これに前立腺特異抗
原を追加していただくだけで検診となります。もし異常値がでた場合は泌尿器
科医に紹介していただければいいわけです。
50歳過ぎた男性は6カ月から1年毎にこの採血検査を受けることをお勧めし
ます。かなりの確率で前立腺癌の早期発見ができるはずです。