「整形外科における検査の考え方」


本田整形外科クリニック 本田 忠


 整形外科疾患では,レントゲン上で正常でも症状がある方,あるいはレント
ゲンで所見があっても症状のない方もいます。

○単純レントゲン写真
質問:腰のレントゲンで正常といわれましたが,腰痛が強く薬を飲んでも治ら
ないので,一度だけ行ってやめてしまいました。どうすればよいのでしょう。
一生腰痛が続くのでしょうか?

回答:これは,よく起こる誤解です。たとえば,腰というのは前に説明したご
とく骨と筋肉でできています。骨に異常がないから問題ないわけではありませ
ん。医師は「骨の形態」が正常であるといっているに過ぎません。腰痛の多く
は,肥満や運動不足や,不良姿勢が原因で起こります。

 レントゲンの異常と症状は直接の関係は多くはありません。また逆に中年以
上の方が,腰痛で受診されてレントゲン等を撮れば,下肢の痺れなどがなけれ
ば,多くは「変形性脊椎症」という病名がつきます。同世代の方の腰のレント
ゲン写真を撮れば,症状の有無に関係なく,大体同じような骨変化を示します。
では同じような腰椎の変形のある方が,すべて腰が痛くなるのかといえば,そ
ういうことはありません。確かに変形があれば正常の方よりは腰痛が起きやす
いとはいえますが,痛みは使い過ぎや筋力不足などの日常生活のなかでの問題
で起こることが多いわけです。従って,安静や薬物治療,その他腹筋を鍛える
などの,いろんな努力をすることで,症状のない快適な生活を送ることができ
ます。レントゲンで変形があるから,かならず症状が出るとは限らないわけで
す。

○ MRI検査
質問:腰のMRIという検査をしたら椎間板が出ているといわれました。これは
ヘルニアでしょうか。だとすれば手術しなければいけないのでしょうか。

回答:腰のMRI写真で椎間板が突出しているだけでは,特に問題はありません。
これは症状のない方でもMRI等を検査すればよくある現象です。脊椎というの
は単なる入れ物であり,大切なのはそのなかの神経なのです。神経が椎間板で
圧迫されれば,下肢痛や痺れなどのいろんな症状が出ます。下肢痛が,薬物治
療その他のいろんな治療で治らなければ,そこではじめて突出した椎間板の切
除などの手術も考慮されます。下肢痛などの症状がなく,椎板間の突出のMRI
所見だけでは,あまり病的意義はありません。したがって,椎板間の突出があ
っても,それが治らなくても,神経根が押されなくて下肢の症状がなければ特
に問題もないし治療の必要もありません。

まとめ
 形態学的変化と機能的障害は必ずしも一致しません。骨の形態が正常でも,
痛みがあるなら,きちんと治療すべきです。また薬物治療を4〜5日続けても
痛みが軽快しないときは,多くは安静不足です。安静度を上げることです。ま
た坐薬等,より強力な薬やバンド等を処方してもらってください。

 また逆にレントゲンで骨の形がおかしくても,症状がなければ治療は必要あ
りません。当然検査もそれ以上は必要ありません。症状があるなら継続的に治
療することはもちろんです。慢性の場合が多いので,直ぐ治らない場合は,継
続的に通って下さい。徐々に厳重な治療に移行します。

 MRIなどでヘルニア所見を見つけられても症状がなければ何等困らないわけ
ですから,当然治療も必要はないわけです。